2012年6月15日金曜日

2012年5月のやっつけ読書


1.ケネス・E・フット著、和田光弘編訳、『記念碑の語るアメリカ―暴力と追悼の風景』(名古屋大学出版会、2002年)Kenneth E. Foote, Shadowed Ground: America's Landscapes of Violence and Tragedy (Austin: University of Texas Press)

2.Leonard Benardo and Jennifer Weiss eds, Brooklyn by Name: How the Neighborhoods, Streets, Parks, Bridges and More Got Their Names (NYU Press, 2006).

3.Kirk Savage, Monument Wars: Washington, D.C., the National Mall, and the Transformation of the Memorial Landscape (University of California Press, 2009).

4.Catherine Ceniza Choy, Empire of Care: Nursing and Migration in Filipino American History (Duke UP, 2003).

5.吉川あゆみ、広田典子、太田晴康、白沢麻弓著、『大学ノートテイク入門―聴覚障害学生をサポートする』(人間社、2001年)。

1.ケネス・E・フット『記念碑の語るアメリカ』
アメリカの文化地理学者による記念碑の研究書を、日本の歴史学者が翻訳。
著者フットは、暴力や悲劇に関係する場所(事件現場)が事件後辿った行く末を四つのパターン:聖別、選別、復旧、抹消に分類し、
アメリカで起こった様々な事件を例として多数取り上げ、幅広い時間軸で説明していきます。
暗殺された大統領個人を英雄としてあがめる場所から、自然災害や労働災害で亡くなった集団を被害者として記念したり、あるいは記念されずに事件の記憶が風化している現場まで、
四つのパターンを基本に分析しています。
大変興味深い一冊です。

2.Leonard Benardo and Jennifer Weiss eds, Brooklyn by Name
ニューヨーク市ブルックリン区の、通り・公園・橋など、様々な場所の名前の由来を紹介しています。
研究者が編集しましたが、研究書ではないので議論はなく、ただひたすら情報が羅列してあり、
辞書的に使った方がいいのかもしれません。
とはいえ、例えば、第一次世界大戦後に反ドイツ的な雰囲気の中でHamburg AvenueがWilson Avenue(当時のアメリカの大統領の名前)に変えられたとか、
道のような日常のありふれた風景の中に、同時代の社会状況を反映したポリティクスが埋め込まれているのを知る上で、
参考になる本です。
これまでアメリカの通り名は、数字以外には、ほとんど白人男性の名前が付けられてきました。
私は黒人に因んだ場所の改名に関する情報収集が目的でこの本を読みましたが、
本を開けば、白人以外に、黒人、ホワイト・エスニック(ハンガリー、ポーランド、アイリッシュ)の名前を冠した地名や、puerto rico St.など色々あります。
また、ニューヨークは、白人の入植者が来る前から住んでいた先住民に関係する地名がほとんどないというのも特徴的だと思います。

3.Kirk Savage, Monument Wars
美術史・建築史家のサベッジが、ワシントンDCのワシントン・モニュメント(真っ白な塔)の建設をめぐる、19世紀からの話し合いや、
DC内の、記念碑建設をめぐる、設置者たちの論争の過程および、記念碑自体を分析した一冊。
時間軸は18世紀から21世紀まで入っていて、かなり広い。
ある出来事の記憶、representation(表象、代弁、代表)の困難さと意義を考えさせられます。
サベッジが、マヤ・リンのヴェトナム戦争記念碑を大絶賛なのは解せなかったけど。。

4.Catherine Ceniza Choy, Empire of Care
日本が経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアとフィリピンから看護師を受け入れた事実は記憶に新しいと思います。
今も、日本の国家試験を受ける際に語学の障壁があったり、文化の違いに悩み、本国へ帰ってしまう看護師が多いなどとニュースで見たりもします。
この本は、アメリカで医療業務に携わるフィリピン人の歴史を分析した本です。
看護師は、訓練されたプロフェッショナルな仕事であるという意味で階級性、
これまで圧倒的に女性化された職業である(日本語では「看護婦」が以前まで出回っていました)という意味でジェンダー、
そしてアメリカの白人の中で非白人であるフィリピン人の経験は、人種性を伴っています。
チョイの独自性は、アメリカにおけるフィリピン人看護師の増加が、
1965年の移民法改正以後に突如起こった現象ではなく、
19世紀末の米西戦争以後にフィリピンがアメリカの植民地となり、
アメリカがフィリピンを文明化しようとした事業の一環としての、現地少女の看護師養成を背景にもつと指摘している点です。
アメリカ政府、フィリピン政府、そしてフィリピン人看護師というそれぞれの主体の錯綜を扱った、有名な研究です。
現在を考える上でも、重要な仕事だと思います。

5.『大学ノートテイク入門』
実用書として読んだけど、結構面白かった。

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